こんにちは!富山の行政書士です。
前回の記事では、ご自身が取得すべき建設業許可の「種類」について解説しました。
「なるほど、自分が目指すのは『富山県知事』の『一般建設業許可』で、業種は『〇〇工事業』なんだな」 と、ゴールが見えてきた方も多いのではないでしょうか。
しかし、次に出てくるのは、 「ゴールは分かったけど、そもそも自分は、許可をもらうための条件をクリアできているんだろうか?」 という、もっと根本的な不安ですよね。

経営経験って言われても、ずっと一人でやってきたし…
資格はないけど、腕には自信がある。この経験は、ちゃんと評価してもらえるんだろうか?
そんな疑問や不安を抱えている一人親方(個人事業主)さんのために、今日は建設業許可を取得するための「5つの要件」、つまり「5つの関門」について解説します。 特に、一人親方(個人事業主)さんが「自分は大丈夫かな?」と悩みがちな2つの大きな壁を中心に、今日はとことん分かりやすく、具体例を交えながらお話ししていきます。
1. 建設業許可取得への「5つの関門」とは?
建設業許可をもらうためには、国が定めた5つの要件をクリアする必要があります。これを一つずつ確認していくのが、許可申請の準備です。
- 経営のプロはいるか? → 【経営業務の管理責任者】
- 工事のプロはいるか? → 【専任技術者】
- 誠実な事業者か? → 【誠実性】
- お金の体力はあるか? → 【財産的基礎】
- 法律上の問題はないか? → 【欠格要件】
言葉だけ見ると、なんだかお役所言葉で難しそうですよね。でも、ご安心ください。要は「経営も技術もお金の面もちゃんとしていて、社会的に信頼できる事業者かどうか」を、一つひとつチェックされている、と考えていただければ大丈夫です。
この中でも、特に一人親方(個人事業主)さんの許可取得の成否を分けると言っても過言ではない、最初の2つの大きな関門「経営業務の管理責任者(経管)」と「専任技術者(専技)」について、今日は「建築工事業」の許可を取りたい場合を例にして、じっくり見ていきましょう。
2. 最重要関門①:「経営業務の管理責任者(経管)」~あなたの社長経験が問われる!~
まず一つ目の大きな壁、「経営業務の管理責任者」、略して「経管(けいかん)」です。

「経管」って、一体なに?
わかりやすく教えてよ。
これは簡単に言うと、「事業をきちんと経営してきた経験があるか?」という点をチェックする要件です。工事の請負契約を結んだり、資金繰りをしたり、従業員を管理したり…といった、会社(事業)の運営経験が問われます。 一人親方さんの場合、現場で腕を振るう職人であると同時に、あなた自身が社長であり、経営者です。ですから、あなた自身の経営経験で、この要件をクリアしていくことになります。

どうやって「経営経験」を証明するの?
基本的には「年数」で証明します。口で「長年やってます!」と言うだけでは認められず、客観的な証拠書類で裏付ける必要があります。
【例】「大工工事業」の許可が欲しいAさんの場合
Aさんが「大工工事業」の許可を取るためには、原則として、「大工工事業」の個人事業主として、5年以上経営してきた経験を証明しなければなりません。
証明に必要な「証拠書類」という名の武器
では、5年間の経営経験をどうやって証明するのか。ここで必要になるのが、あなたがこれまでコツコツと積み重ねてきた証、以下の書類です。
- 過去5年分の確定申告書の控え又は所得証明書
これが何より重要です。税務署の受付印が押されたもの、またはe-Taxで申告した際の受信通知がセットになったものが必須です。これが、あなたが「個人事業主」として活動していたことの、動かぬ証拠になります。
所得証明書は所得の種類が営業(事業)所得で申告されていることを確認します。 - 工事実績がわかる書類(5年分)
確定申告をしていた5年間、実際に「大工工事」を請け負っていたことを証明するための書類です。
具体的には、- 工事の契約書
- 注文書と請書
- 請求書の控えと、その代金が入金されたことがわかる通帳のコピー などです。
毎月1件ずつ、年間12件×5年分=60件分…とまでは言いませんが、年間を通じてコンスタントに工事を行っていたことがわかるように、これらの書類を揃える必要があります。
一人親方(個人事業主)さんが注意すべきポイント!
- 確定申告は命綱! もし、確定申告をしていない期間があれば、残念ながらその期間は経営経験としてカウントされません。「昔は売上も少なかったから…」という方もいますが、許可取得を目指すなら、毎年きちんと申告し、控えを絶対に保管しておくことが重要です。
- 日々の書類は、未来への宝物! 「もう終わった仕事だから」と、昔の契約書や請求書を捨ててしまっていませんか?それらが、数年後のあなたの貴重な経営経験を証明する「宝物」になります。今からでも遅くありません。工事に関する書類は、年度ごとにクリアファイルに分けるなどして、大切に保管する習慣をつけましょう。
3. 最重要関門②:「専任技術者(専技)」~あなたの腕と知識が問われる!~
二つ目の大きな壁は、「専任技術者」、略して「専技(せんぎ)」です。

「専技」って、一体なに?
こちらは、「許可を取りたい工事に関する、専門的な技術や知識を持っていますか?」という点をチェックする要件です。現場の技術的なリーダー、いわば「技術のエース」がいるかどうかを問われます。 もちろん、一人親方(個人事業主)さんの場合は、あなた自身がこの技術エースも兼ねることがほとんどです。「経管」と「専技」の要件は、一人が両方を兼ねることができますので、ご安心ください。

どうやって「技術」を証明するの?
証明方法は、大きく分けて2つのルートがあります。「国家資格」で一発で証明するか、長年の「実務経験」で地道に証明するか、です。
【例】引き続き、「大工工事業」の許可が欲しいAさんの場合
【ルートA】国家資格で一発クリア!最強のカード!
もしAさんが、以下のいずれかの国家資格をお持ちなら、それだけでOKです!長年の実務経験を書類で証明する必要はなく、この「専技」の関門は一気にクリアできます。この場合、資格証や合格証の写しを添付します。
- 1級建築士
- 2級建築士
- 木造建築士
- 1級建築施工管理技士
- 2級建築施工管理技士(仕上げ)
- 一級技能士(建築大工・型枠施工)
- 二級技能士(建築大工・型枠施工)※3年以上の実務経験が必要
- 監理技術者資格者(大工)
木造建築史【ルートB】腕一本!「実務経験」で証明!
「資格はないけど、この道一筋でやってきた経験なら誰にも負けない!」という方も、もちろん大丈夫です。
その豊富な経験を証明するルートです。
- 原則は10年以上の実務経験
「大工工事」に職人として、または現場監督などとして携わった経験が、合計で10年以上必要になります。 - 学歴による期間短縮もあります!
もし、建築に関する学科(例えば、工業高校の建築科など)を卒業している場合は、実務経験は5年以上に短縮されます。 同じく、建築に関する大学の学科を卒業していれば、3年以上に短縮されます。 - 証明に必要な「証拠書類」は?
こちらも「経管」と同じく、経験年数分の工事の契約書や注文書・請書、請求書の控えと通帳のコピーなどが必要です。「経管」の証明書類と重なるものも多いので、一緒に準備を進めると効率的です。
10年分の経験を証明するなら、10年間の工事実績を、請求書や通帳などを頼りに、一年一年遡って地道に証明していくことになります。このルートが一番大変です…以前に勤めていた会社での経験を含む場合には、その会社の書類も用意しなければいけないため、転職歴がある場合などはこれらの書類をすべて揃えるのは、かなり大変な作業になります。 - 国民健康保険被保険者証(社会保険被保険者証)、被保険者記録照会回答票、雇用保険被保険者離職票など、実務経験を証明する期間中、常勤で働いていたことを証明しなければなりません。
4. 残りの3つの関門は大丈夫?~簡単におさらい~
「経管」と「専技」という2つの大きな壁。いかがでしたでしょうか。この2つをクリアできる見通しが立てば、ゴールはもう目の前です。残りの3つの関門は、真面目に事業を続けてきた方なら、クリアできることが多い要件です。
- ③誠実性 → 契約を守り、嘘をついたり、手抜き工事をしたりしない、真面目な事業者であること。
- ④財産的基礎 → 会社の通帳、または個人の事業用通帳に、500万円以上の残高があることを、銀行が発行する「預金残高証明書」で証明できればOKです。
- ⑤欠格要件 → 過去に法律違反で重い罰金刑を受けたり、破産手続き中でまだ復権(通常の権利)を取り戻していなかったり、といった特定の条件に当てはまらないこと。
まとめ:あなたの経験は、許可を取るための「財産」です
建設業許可の5つの要件、特に2つの大きな壁について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。 難しく感じるかもしれませんが、突き詰めれば、許可要件とは、これまでのあなたの頑張りの積み重ねそのものを、書類という「形」にして証明していく作業に他なりません。 あなたが現場で流した汗、お客様や元請業者さんと築き上げてきた信頼、それら全てが、許可を取るための揺るぎない「財産」になるのです。
「自分の経験で、本当に証明できるんだろうか…」 「昔の書類なんて、どこにいったか分からないし、もう無理かもしれない…」
もし、少しでも不安に感じたら、決して一人で抱え込まないでください。私たち行政書士は、あなたの状況を丁寧にお聞きし、眠っている経験という「財産」を一緒に掘り起こし、整理して、許可取得というゴールまで伴走するプロフェッショナルです。
まずは、ご自身の職歴や持っている資格、保管してある書類などを一度、ゆっくりと見直してみることから始めてみませんか?それが、あなたの事業を新しいステージへと進める、確かな第一歩になります。